Charlotte Weekly 1997.01.12.号 通巻 第24号

米国の航空運賃

今週は、米国の航空運賃について、ご報告致します。 米国の航空運賃は、一般的には「高い」です。先週もご報告しましたように、 「普通」に航空券を買うと、ニューヨークとロスアンゼルス間で、2千ドルは します。それと比較する意味で、ロスアンゼルスと日本の航空運賃を見てみま すと、安いもので6百ドル位、正規運賃でも2千ドル位です。距離は後者の 方が前者の倍位ありますので、米国の航空運賃は「高い」と感じるわけです。 では、こんなに高いのは何故かを私なりの経験と知識でご説明致します。

この理由は3つありまして、競争原理と一物多価制度、それから社会システム での、価格(コスト)の位置づけに由来すると考えています。

まず、競争原理からご説明致します。米国は市場経済において競争原理が、 明確に働きます。すなわち、競争のあるところでは価格も含めて、ほとんど すべての要素が比較され、企業はその中で個性ある商品の差別化をはかり、 競争に打ち勝とうとします。しかし、航空会社や電話会社などは、本質的な サービスでの差別化はできませんから、結果的にどこも同じ内容です。 (例えば航空会社の場合、他社よりも半分の時間で行けるサービスとか、 電話会社の場合、音声がステレオで聞けるとかのサービスは一般的ではあり ません)ですから航空会社は、価格での競争になってしまうわけです。

逆に考えると、競争さえなければ供給側は(購入してくれる額であれば) 価格を上げることが可能になります。すなわち「普通」の買い方というのは 消費者からすると「選択の余地のない」買い方で、その時価格は「高い」ので す。実際に当てはめると「明日」どうしても出かける場合には「選択の余地」 がありませんから、「高い」運賃を払うことになるわけです。しかし、事前に 旅行することが分かっていて、いろいろなオプションを選べるときは、価格は 非常に安くなることがあります。航空運賃などでも、場合によると通常運賃の 20%程度で買えることもあります。これが競争原理です。 実際のところ、価格はすべて航空会社のその時の思惑で決められており、頻繁 に変更されますので、実際のところ、この価格情報を正確にかつ迅速に手に 入れるのは必ずしも容易ではありません。 次に一物多価制度ですが、これは米国ではごく一般的です。同じ商品が、 いろいろな価格で売られます。特に缶コーラなど同じ形の自動販売機で売られ ていても、場所によりコーラの値段が違います。ここでは価格は(製造者では なく販売機で)売る人が決めるため、そのようになります。その意味で航空 運賃も、割引料金を払わなかった人と、正規料金を支払った人といろいろ混ざ って乗客の集団が構成されているわけです。それでも、価格による飛行機内で 待遇の差はありませんから、これなども一物多価制度といえるでしょう。 (購入時期という交換条件は入りますが)

最後に、米国での社会システムとの絡みで考えたいと思います。 これは、一言で言うと、米国の産業は「ビジネス」で儲けるというシステム に基づいているのだと思います。(例外は映画とエンターテイメントですが これは、明らかに家庭をターゲットにしていますので今後ご報告します) 例えば、これは、週末の航空運賃に見られるのですが、直前になり、格安の 航空券が出ます。これは空席を埋めるためのダンピングです。 うまくこれが使えると通常運賃の20%とか、極端には10%以下などという価格 で航空券が入手できます。週末は米国人は「家」にいますのでこれは明らかに ビジネス向けの価格ではありません。「家庭」をターゲットにして設定された 価格ということになります。それと同時に、ホテルの値段も週末レートは安く なります。すなわち飛行機会社もホテルも、「ビジネス」で稼いでいるのです。 そこで儲けて「家庭」には利益を還元しているのです。ここが、とても面白い ところです。

これ以外にも、ビジネスの方が高いものが、まだあります。それは電話料金 です。こちらでの、電話料金は個人用とオフィス用で分かれていて、オフィス 用は個人用より20%位高くなっています。これは、地域の電話会社による差が ありますので、あくまでも私の住んでいるところという限定つきですがこちら では何故か納得できる料金体系です。

このようなことをまとめてみて思ったのですが、米国の庶民の生活意識と社会 のシステムはとても良く機能しているように思えます。特に家庭生活を大切に することが「常識」になっている社会ですので、企業もそれに沿った「具体的 活動」で消費者にアピールしています。航空会社は、飛行距離によるポイント 制を採用し、そのポイントで無料航空券がもらえるシステムを採用しています。

今では、実際に飛行機に乗らなくても、買い物をしたり、ホテルやレンタカー を利用したときにもポイントが取れるようになっています。

米国では出張や旅行はほとんど航空機を利用することが多いので消費者が もっとも喜ぶようにという対応なのだと思います。ちなみに、出張などでため たポイントは、家族の旅行に使うことが多く、ビジネスに使ったという例は 聞いたことがありません。こんなところが、米国の庶民のしたたかさの反映さ れた社会の一面かもしれません。

多分このようになるまでには多くの時間がかかっていることでしょう。しかし 庶民が快適になるようにうまい仕組みを考えてきた社会の知恵はなかなか 面白いと思っています。逆に「家庭」から嫌われる企業は生きてゆけない という現実があるようにも思えます。社会の構成員は一人一人がそれぞれの 「家庭」とそれぞれの「ビジネス」に属している考えると、同じ人の活動の 場所の差が「家庭」であり「ビジネス」であるわけです。その中にもし矛盾が あるとすれば、それは、一人一人の矛盾になるわけです。それらの要素を矛盾 が少なくなるように具体化に反映したのが、今回ご説明したような米国の航空 運賃のシステムであるように思います。


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