Charlotte Weekly 1997.03.02.号 通巻 第31号

米国人と映画 その3

今週は、映画が産業として、どのように市場を確立しているかを、ご報告 します。ご承知のように、映画会社の資産は「作品」です。その作品を成り 立たせるのは、「原作」であり、「脚本」であり「スター」であり「撮影技術」 です。それらを駆使して魅力ある作品を作り上げ、「著作権」で保護し、作品 を「販売」して「利益」を上げるのが映画会社の役割になっているわけです。 その中に、典型的な「モノ作り」ではない現代の「知識産業」の集積が見られ ます。その基本コンセプトは、「作品」での主張であり、「お客を喜ばせる」 サービス精神の発揮です。そして、ほとんど人海戦術で作り上げられている 世界です。その作り方が、コンピューターの発達で、大きく変わってきていま す。

まずは、従来の方法からご説明します。映画はその製作過程が、ユニバーサル スタジオや、MGMスタジオのようなテーマパークにあるような、本物に近づ けたモデルを使います。これを、セットとして、俳優のアクションを撮影し、 そのフィルムを切り貼りして映画を作るのが通常の手法です。この手法に、 火災や、大水など、ミニチュアサイズの装置で、撮影効果を付けて、映画で アップすると、大火災、大洪水となります。この手法は、現在も使われている ようですが、最近ではコンピューター技術の応用が、映画製作の方法を大きく 変えています。

実像の面での応用と、バーチャルの面の応用を見てみたいと思います。 一つは、コンピューターを使ったセットの動きのコントロールの進歩です。 これは、たとえば「ジュラシックパーク」のダイノザウルスの顔の動きのよう に、本物よりリアルな表情を出す効果などが、その例です。
もう一つは、コンピューター「データ」から生まれた、キャラクターの出現で す。これは、「トイストーリー」で、世界で始めて実用化されたのですが、 このキャラクターは、データさえあれば、その特色を生かしつつ、キャラクタ ーを3次元で変化させることができます。これは、アニメと違って、人間が 2次元のフィルムの上に作成するものではなく、はじめから3次元のデータを 持った、一つの「存在」になるわけです。ですから、トイストーリーのキャラ クターの現実の存在は、コンピューターのデータであり、アニメのキャラクタ ーは製作者の、頭の中のイメージということになります。

この「トイストーリー」というのは、ディズニーが製作した映画ですが、ここ で、今までの「ミッキーマウス」とは違う生まれ方をした、新しいキャラクタ ーが誕生したわけです。1928年にミッキーマウスが誕生したといいますから、 アニメの世界から、抜け出るのに70年近くかかったわけです。それも、コン ピュータの発達のおかげで、可能となりました。その仕事を担当したのが、 「アップルコンピュータ」の設立者のひとりであるスティーブン・ジョッブス です。彼らが、ガレージでアップルコンピューターを作ってから、20年近く たちました。これを、短いと考えるのかどうかは分かりません。しかし、彼の ような人が今でも時代の先端を、現役で切り開いているのには、本当に驚きま す。先頭を走りつづけることは、どこの世界でもそうたやすいことではないで しょう。ことさら、進歩の早いコンピューターの世界ですから、すごいことだ と思います。

そのような、技術的な進歩のもとで、現実ではない超現実を人々は、映画で 楽しむことができるわけです。もちろん、コンピューターの性能を駆使して います。その意味で、ハイテクの会社が、たくさんハリウッドの周りに集まっ ています。これが、現在の米国の活力の一つになっているのも事実です。

では、作品の販売はどのようになっているでしょうか。ここで見落とせないの は、米国での映画は、すでに市民権があるということです。以前にもご報告 しました様に、普通のニュースでもハリウッドを紹介する時間を持っていて、 新作紹介やハリウッドでのイベントを、頻繁に放送しています。新聞にも「映画 紹介」あるいは「映画批評」のページを持つものがあり、人々は新作映画に ついての情報を入手して、どの映画を見るかを、決めます。この、情報は専門 のコラムニストによってなされることが多く、たいてい厳しい採点がなされま す。具体的には星の数で、すばらしいとか、まあまあとかランク付けされます。 この「市民権」の上に映画会社独自のプロモーションが行われます。TVでの PRや、新聞での広告やちらしで、新しい作品を紹介してゆきます。

そして、劇場での映画の公開です。映画会社にとってはここでの、収入が一番 多いのですが、やはり、入場者数をどれだけ増やせるかが一番大きなポイント で、TVや新聞、雑誌などでのキャンペーン広告が行われます。昨年では、 「インデペンデンスデー」という映画が、文字どおり7/4の独立記念日に公開 されまたが、公開の日までTVや新聞で、あと何日といった広告出されました。 このような広告費、そして、ハイテク技術をふんだんに盛り込んだ作品や、 特殊撮影技術を駆使した作品が増えて、映画製作のコストも、桁違いに多く かかるようになってきています。
そのため、製作にあたりスポンサー付きの映画も増えてきています。そこでは、 ハリウッドは元手を多くかけて、更に多くの利益を得るという、ハイリスクー ハイリターンのビジネスを中心に据えています。 ですから、これぞと思う作品には、人もお金もかけているわけです。こうして、 公開された映画は、米国での公開からはじまり、ヨーロッパや、アジアに配給 されるわけです。そして、半年後にビデオ化されます。そこで消費者は、作品 を購入したり、レンタルビデオを借りたりするわけです。もし、ビデオの売り 上げや、著作権収入が少ないときには、TV放映権というものを売ります。 このあたりは、映画産業のビジネス戦略とつながっていますが、「作品」の 価値を「著作権」で守りながら、世界から収入を上げています。ただし、作品 のビデオの価格は安く、家族が映画館で楽しんだ時と同じくらいに設定されて います。

現在、日本ではDVDプレーヤーが発売されていますが、私の住んでいる街で は一般の小売店ではお目にかかりませんし、普通の人々は欲しがってはいませ ん。その理由は、現在あるビデオで映画が楽しめているのに、DVDにする理由 がないと考えている人が多いことと、ハリウッドに対して、ビデオ業界とレン タルビデオ業界が、既存のマーケットの大きさを訴えかけたりしているからで す。

私には、ハイテク技術を競いながらたくさんのお金を使う「ハリウッド」の 文化が、マーケットという観点では消費者の保守性に合わせざるを得ないこと が、とても奇妙に見えます。しかし、良く考えてみると、この本質は、マーケ ットが受けるメリットは何かと考えることにあるようです。お金をかけてハイ テクで楽しい映画を作れば、消費者は喜ぶけれど、もしプレーヤーを新たに 購入しなければならないとすると、消費者の負担が増えます。しかも、「今ビ デオで映画は楽しめる」のにどうしてDVDに変える必要性があるのですかと いう問いかけに答えられないと、変化は起こらないのです。

これなどは、米国人の保守性の代表的な例です。私もこちらに来るまでは、 米国人は次々と新しい機械を買って、あふれかえるものに埋まっているのでは ないかと思っていました。しかし、実際に見てみると、とてもものを大切に する人たちです。私の同僚も父親が20年近く使った車に乗っていますし、 車を自分で修理する人たちも多くいます。そして、売られている電気製品など はすべて頑丈で、機能は単純です。携帯電話など、日本のように軽いものには めったにお目にかかりません。ビデオデッキの機能は、録画・再生だけで値段 は$150位からあります。使い捨ては、レストランのペーパーナプキンとか、 トイレのペーパータオルです。これは、かなり激しく使います。 あとは、食べ物がたくさん捨てられています。機械の類は、大切に使われます。

そのような国民性を反映した社会で、知識の集積産業が、ハイテクメーカーを マーケットの論理でコントロールしているところが、ここ数年のハリウッドだ と思います。映画という、ハイテク技術の粋を尽くした作品も、市場では 保守的なマーケットのニーズに合わせた速さで動いて行くわけです。しかし、 私から見ると、明らかに大きなメリットを持っているDVDが今後どのように 米国のマーケットに浸透して行くのか、とても興味のあるところです。


ゥCopyright 1997, 1996 Hiroshi Yagi. All Rights Reserved Worldwide.


<<目次のあるぺージに戻る>>

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

26

27

28

29

30

31

32

33

34

35

36

37

38

39

40

41

42

43

44

45

46

47

48

49

50


ゥCopyright 1997, 1996 Interpacific Network Corporation. All Rights Reserved Worldwide On Any Copyrightable Materials.