Charlotte Weekly 1997.07.20.号 通巻 第48号

人の名前を覚えること

今週は、人の名前を覚えることが米国でも、とても重要であることの報告です。

−ニックネームで呼び合う社会−
米国人は、ニックネームでお互いを呼び合います。それも本名を省略したニック ネームを呼び合います。たとえば、今の米国の大統領はウィリアム・クリントン という名前ですが、ビル・クリントンと呼ばれます。偉い人でもニックネームで 呼ばれることにほとんど抵抗は見られません。はじめは少し、不思議な感じがし ますが、慣れてくるとニックネームだけしか思い浮かばない人も多くなります。 そして、互いにニックネームを呼び合いながら、仕事や遊びをしています。
聞いた話ですが、マリオットホテルの会長は、年間200日かけて一つ一つのホ テルを回り、35万人の従業員の仕事ぶりを見て歩くそうです。そして、従業員 に会うと、まずニックネームを呼び、家族状況を尋ねるそうです。それが、従業 員の心に響き、今では米国最大のホテルチェーンに成長させる原動力になったそう です。ニックネームは、単なる省略呼称ではなく、個人のIDなのです。

−子供のころからニックネーム−
ニックネームは子供のころから使われます。学校でも使われますし、家庭でも同 じです。そして、一人一人の固有名詞として扱われます。ですから、日本の学校 で呼ばれる、「姓」とは異なり「名」を使うことになります。ですから、姓が表 す、家の代表(という意識があるかどうかは別として、発想はそこからきている と考えてもいいと思います)とは別に個人名で呼ばれて、育てられるわけです。 昨年の文部省の統計に、小学校や中学校の卒業生で、担任の先生の名前を正確に 覚えている人は、日本人の場合は30%位であるのに対して、米国人では80%を 超えて覚えているという統計がありました。私は、その原因がこのニックネーム に由来しているのではないかと、推定しています。では、この名前を覚えることは 簡単なことでしょうか。ビルとか、トムとか確かに文字で書くと簡単ですが、名前 と顔とを一致させるのは、米国の人でも、かなり努力を要するようです。因みに、 MBAの資格を持っているような人でも、一度会った人の顔と名前を覚えるのに、 家に帰ってから名詞に似顔絵を入れたりして、苦労しながら覚えているという話も あります。それでも、ニックネームで済むところは、日本の場合に比べて簡単かも しれません。

−再会したときがポイント−
では、このように覚えたニックネームは、どのように活用されているでしょうか。 それは、初対面で出会った後、次に再会したときが一番のポイントになります。 すなわち、「やあ、ビル、相変わらず元気かい」とか出てくれば、もう完璧です。 その間の努力が報われるわけです。それが、出てこないとあまりスムーズに、話 が流れなくなります。再会したときに米国人は、hugという、抱擁をよくやりま す。これは、日本ですと子供に「よしよし」をするような感じで、米国では、 空港のゲートなどで、子供も大人もよくhugしている姿を見かけます。
マスターズで、タイガーウッズが優勝した後に、お父さんと抱き合っていたのも hugです。これなどは、さしずめ「息子よ、よくやったぞ」「お父さん、ありが とう」という心の交流が伴ったものでしょう。これは、会社の仕事仲間などでも 見かけられます。それは、再会の挨拶のあとhugになりることもあり、ニックネー ムを呼びあう間柄でないと始まらないという感じです。

−名前の意味−
日本と米国しか名前の呼び方は知りませんが、米国の教育と照らし合わせると 面白いことがわかります。今年の夏は、下の子供が英語のリーディングをサマー スクールで受けることになりました。夏休みの間に、一冊の本を読みとおすのだ そうです。しかし、私の異動で、引越し先の様子を見にいったりして、サマース クールを休まなければならなくなりました。私は、子供に、休んでいる間の分を 予習するように指示したところ、子供がその必要はないといいました。
事情を聞いてみると、読む本は自分が面白そうだと思ったものから選んで決める。 だからその本を読んでいるのはスクールの中では自分しかいない。休んでも、 次に出て行けば、前の続きから始められるというのです。これなど、個人として の嗜好を生かしつつ、楽しく学ばせる方式ではないかと思い当たった次第です。 このあたりは、私はみんなで同じ本を読むという発想をしてしましたが、個を 対象にしている思想と、流れているものが一緒ではないかと、思いました。
ニックネームの使われ方とhugを見ていると、個人が強くないことを知りつつ、 お互いを認めて理解するところに、一つの生き方を見出しているように思います。


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